AIのROIは、ほかの予算項目と同じ方法で測ります。比較の基準となる年、名前の付いたコスト区分、中間目標を伴う期限、達成のために支払った費用と並べて示す総節約額、そしてコスト指標と並べた品質指標です。最もわかりやすい公開事例が2026年10月5日に登場しました。ドイツの通信グループであるDeutsche Telekomが、ボンで投資家に対し、AIと自動化によって2030年までに間接費を2023年比で約25億ユーロ削減できる見込みだと伝えたのです。

多くの企業は今もAIを、実施中のパイロットやサブスクリプションの数で測っています。サウジアラビアは2026年を「人工知能の年」と宣言しており、AIへの支出をどう測るかが今年の課題になっています。測定ツールについてはAIの本当のROIを測る方法をご覧ください。

ドイツテレコムが発表した内容を数字で見る

  • 2027年の目標:米国以外でAIと自動化により、2023年比で約11億ユーロの総節約。2024年のCapital Markets Dayで設定した目標は約8億ユーロだったため、同社は目標を引き上げたことになります。
  • 2030年の目標:2023年比で間接費を約25億ユーロ削減。
  • 売上:米国以外の企業向け事業から、2026年に約2.5億ユーロのAI関連売上を見込み、2030年には約8億ユーロに増やす計画です。
  • カスタマーサービス:チャットボットのFrag Magentaは、2026年上半期に約260万件のカスタマーサービスの問い合わせに対応しました。米国事業ではカスタマーサービスへの電話が55%減少し、現在はAIエージェントが顧客との接点の40%を処理しています。
  • ネットワーク:RAN Guardianというエージェントが、モバイルネットワークの負荷イベントへの対応時間を数時間から約一分に短縮しました。
  • 品質:AIが接続確立の問題を早期に検知した場合、苦情は30%減少しました。
  • 人材:AI for Allの取り組みのもとで、10万人を超える従業員がAIツールの研修を受けました。

これらは企業が投資家向けイベントで自社について公表した数字であり、2027年と2030年の目標は予測であって実績ではありません。それでも、その書き方は見習う価値があります。

目標を検証可能にする四つの要素

  • 基準年:すべての数字が2023年と比較されています。出発点がわからなければ節約に意味はなく、今日コストを記録していない企業は、明日どんな節約も証明できません。
  • 名前の付いたコスト区分:2030年の目標は総コストではなく間接費を対象としています。同社はこの区分に何が含まれるかを明らかにしていませんが、名前を付けるだけでも、AIによる節約がほかのあらゆるコスト削減と混同されるのを防げます。
  • 期限と中間目標:2027年、そして2030年。中間目標があったからこそ、同社は達成度を測定したうえで目標を引き上げることができました。
  • 純額ではなく総額:2027年の目標は、ツールや開発への支出を差し引く前の総節約として説明されています。御社では、節約できた額とそのために支払った額、両方の数字を並べておく必要があります。

見落としやすい五つ目の要素があります。コスト指標と並べた品質指標です。苦情が30%減ったということは、節約が顧客の犠牲の上に成り立っていないことを示しています。苦情を増やす節約は節約ではありません。先送りされたコストです。

節約はどこから生まれるか:見せるためのプロジェクトではなく繰り返しの業務

同社が示した事例は、目新しいプロジェクトではありません。何千回も繰り返される日常業務です。

  • 顧客からの繰り返しの質問:注文状況、請求書、既知の障害。Frag Magentaが対応しているのはこうした質問であり、御社のカスタマーサービスにWhatsAppや電話で寄せられるのと同じ種類の質問です。
  • 顧客が報告する前に問題を見つける:RAN Guardianは顧客には応答しません。ネットワークを監視し、一分以内に対処します。御社でこれに相当するのは、在庫切れ間近の商品、支払期限を過ぎた請求書、遅れている注文に対するアラートです。
  • 従業員の日常ツール:同社はChatGPT Enterprise、Microsoft Copilot、そして自社の社内アシスタントであるAskTを使っているとしています。有料のサブスクリプションを実際の利用に変えるのは、幅広い研修です。

自社の規模でこうした目標を書く方法

従業員30人の企業が数十億の話をすることはありませんが、同じ枠組みはどんな規模でも機能します。まず一枚の紙から始めましょう。

  • 繰り返し発生するプロセスを三つだけ選ぶ:たとえば、顧客からの問い合わせへの回答、仕入先の請求書の入力、週次の売上レポートの作成です。毎日繰り返されるプロセスこそ、節約が表れる場所です。
  • ツールを導入する前に、今月中に基準値を記録する:プロセスがどのくらいの頻度で実行され、どれだけ時間がかかり、誰が担当し、どれだけのミスや苦情が生じているか。この数字がなければ、後の節約はすべて数字ではなく意見にすぎません。
  • 各プロセスにコスト指標と品質指標を設定する:一件あたりの処理時間とエラー率、あるいはスタッフを介さずに完結した会話の数と苦情の件数です。
  • 90日後の確認ポイントと一年後の目標を設定する:近い確認ポイントによって、目標を調整すべきか、ツールを変えるべきかがわかります。
  • 純額を計算する:節約額からサブスクリプション費用、人によるレビューの時間、研修の時間を差し引きます。
  • 節約分の使い道を事前に決める:ドイツテレコムは、2027年の追加の節約分をデジタルトランスフォーメーションの加速とドイツ国内の光ファイバー拡大に再投資するとしています。御社では、スタッフの作業時間をデータ入力から顧客フォローへ移すことがこれにあたるかもしれません。

プロジェクトの前後でリターンを測る方法はAIの本当のリターンを測る方法についての記事で取り上げ、カスタマーサービス用アシスタントのリターンはAIアシスタントのROIについての記事で段階的に計算しました。

御社には当てはまらないこと

  • 規模:この規模の企業は、ツールやチームのコストを数百万の顧客に分散できます。小規模な企業では、一つのプロセスでの節約によって、ツールの費用を数年ではなく数カ月で回収する必要があります。
  • データ:一分以内に対処するエージェントには、出来事が起きると同時にデータが届く必要があります。御社で早期アラートを実現するには、まず注文、在庫、請求書を散在するファイルではなく一つのシステムにまとめる必要があります。
  • 発表された数字は実績ではない:25億ユーロは2030年の目標です。ベンダーの約束をこの数字と比べてはいけません。ベンダーには基準値と、責任を負う指標を求めましょう。

Origamiの見解

私たちはドイツテレコムの発表を、AIを使うべきかという問いから、AIがどれだけ、どこで節約するのかという問いへの転換と受け止めています。これは、王国のすべての経営者が新しいサブスクリプションに署名する前に、特にさまざまなオファーがあふれる今年こそ問うべき質問です。

私たちが手がけるプロジェクトでも、同じ順序で始めます。まず現在のプロセスの実態を測定し、次にそのプロセスが実際に行われているシステムにツールを接続し、稼働開始後にコストと品質を同時に測定します。注文や請求書のデータを見られないAIは文章作成のアシスタントにとどまり、コストを下げるツールにはなりません。

まとめ

  • ドイツテレコムは、米国以外で2027年に約11億ユーロの総節約、2030年に約25億ユーロの間接費削減を目指しており、いずれも2023年との比較です。
  • この発表の価値はその枠組みにあります。基準年、コスト区分、中間目標を伴う期限、そしてコストと並べた品質指標です。
  • 示された節約は繰り返しの業務から生まれました。顧客からの質問、問題の早期発見、そして幅広い研修後の従業員の日常ツールです。
  • 三つのプロセスから始め、今月中に基準値を記録し、節約を純額で計算し、その使い道を事前に決めましょう。

出典